米国足病医学および米国足病医について

日本でも足に関するトラブルや治療への関心の高まりから、足病医学への注目が集まってきている。そんな中、日本在住で唯一、米国足病医の資格をもつ泉 有紀先生に「足病医学、足病医とは何か」「いかにして米国足病医になったのか」「日本における足病医療の課題は何か」について聞いてみた。

 

  1. 足病医学、足病医とは何か
  2. どのようにして米国足病医になったのか
  3. 日本における足病医療の課題はなにか

 

1. 足病医学、足病医とは何か

足病医がカバーする足の疾患領域は5科目以上

足に生じた疾患であれば、整形外科、形成外科、皮膚科、血管外科、内科などの領域に関わらず診療することができる

 

世界30カ国以上に、足病医を含む足専門の医療職が存在する

国際ポダイアトリスト連盟に加入している国は、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、南アフリカなど30カ国以上ある

 

現在、日本在住の米国足病医は1人

日本には足病医の国家資格がなく、足の専門医は少ない。整形外科医や形成外科医、皮膚科医のなかには足専門に診る医師がいるが、米国足病医は泉先生ただおひとり

 

足病医学はヨーロッパ発祥

ヨーロッパで生まれてオーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどへ移民によって持ち込まれて広がった

 

米国足病医だけがドクターの称号を持つ

足に特化した医療専門職を「ポダイアトリスト」と言い、足病医と足治療師が含まれる。アメリカでは一般的な医師と同年数の医学教育を受けてドクターの称号が授与されることから❝米国足病医❞と呼ばれ、手術や麻酔、投薬などができる。他の国では、理学療法士や看護師などのコメディカルに相当する❝足治療師❞がいる

 

「足病医」、❝あし病医ともそく病医とも読む

どちらも使われているが、かつては、西日本では「あし病医」、東日本では「そく病医」と読んでいたという説があるがどちらも正しい

 

Q.整形外科医と足病医は何が違いますか?

A.タコやウオノメの皮膚科と、傷など形成外科の領域も診るところです

「足病医というと、整形外科と似ているというイメージを持ってしまう人も多いでしょう。実際に整形外科医の足の専門医とはかぶる領域ではありますが、爪の治療やタコ・ウオノメ、といった皮膚科で診るものや、傷など形成外科で診るものも足病医は検査、治療をします。反対に、整形外科は足以外にも腕や肩なども診ますが、足病医は、足以外は診ない、診られないのです」

 

Q.アメリカで足病医学が発達したのはなぜですか?

A.戦争のときの足のケアとして重要視されたと、言われています

「ヨーロッパで発祥した足病医学は、移民によってアメリカに持ち込まれました。そして南北戦争(1861~65年)のとき、軍人の足のケアとしてポダイアトリストが職能団体を作り、学校を設立して学問として広まったことで国が重要視したのです。その後、第二次世界大戦(1939~45年)のときは退役兵群のいる総合病院に足病医をおくことが義務付けられました。というのも、退役兵群はうつ病やアルコール依存症、糖尿病など生活習慣病患者が多く、そのために足が壊死するなど足のケアが必須だったからです。軍の管轄においても、例えば兵士の爪が割れて歩けない、となると戦力としては損失になります。そういったことを防ぐためにも足病医が必要とされたのです」

 

Q.アメリカ以外足病医はどこの国にいますか?

A.ヨーロッパを中心に世界30カ国くらいはいます

「発祥であるヨーロッパ、とくにイギリスやイタリアなどはもちろん、ニュージーランドやオーストラリア、シンガポールはイギリスで取得した資格を使えることもあり多くいます。アフリカでは南アフリカにはいて、アジア特に発展途上国にはほとんどいません」

Q.他の医学にはない、足病医学ならではの領域はありますか?

A.足病医学における下肢バイオメカニクスがあります

「ヨーロッパから移民によってアメリカに持ち込まれた足病医学は1980年代、カリフォルニア大学教授のマーティン・ルート(1922-2002年)によって足病医学における下肢バイオメカニクス理論が確立されました。その中で多くの共通言語が生まれたため学問としての体系化が進みました。これがアメリカ発祥の下肢バイオメカニクスとして「ルート理論」となりました。医療用足底板の1つのカテゴリーとして、この理論に基づいたファンクショナルオーソティックスが生まれました。現在では、この理論は理学療法やカイロプラクティックにも取り入れられています」

 

Q.足病医が治療の一環として用いる医療用足底挿板であるファンクショナルオーソティックスとはどのような目的で使われていますか

A.足の保護や痛みの緩和と、足の機能を最適化するために使います

「足病医が一般的に処方する足底装具には、2種類あります。

ひとつはアコモデーティブオーソティックスです。これは足を保護して痛みをとることを目的としています、動きによって生じる痛みではなく、足の変形や皮膚が弱いことで痛みが出ないように保護するためのものなので荷重した足の状態で採型します。糖尿病の足潰瘍予防の足底装具はこれに該当します。また、痛い部分に圧がかからないように、素材は柔らかいものを使っています。

もうひとつはファンクショナルオーソティックスといい、本来ある足の機能を最適化するための足底挿板です。足に体重がかかった状態では痛みや不具合が出ています。そしてこの痛みや不具合の原因となっているのが、例えば骨配列の崩れです。よって、荷重した足の状態で採型すると「崩れた」形を採型してしまうことになるので、ファンクショナルオーソティクスにおいては、非荷重の状態で足の機能を最大限に発揮できるように足の位置を整えて採型します。人の足については、荷重がかかったときに足が広がるので、歩行時の足にフィットしないのではないか……といったご懸念をもたれる方もいますが、例えば、NWPL社足底挿板(ファンクショナルオーソティックス)に関していえば、荷重時の皮膚の広がりを加味した特別な計算式に基づいて作られています。体重と歩いたり、走ったりといった動きでかかる力に耐えられるべく硬い素材で作っているのが特徴です」

Q.アメリカでは医療用足底挿板はどれくらい普及していますか?

A.日常的な会話に出てくるくらいは普及しています

「目が悪くなったな……」と言ったら「メガネ、買ったら」というような感覚と同じように、「歩きづらくなったな、足が痛いな」と言ったら周りから「足底挿板を処方してもらったら、いい先生知っているよ」といった感じで、日常会話に出てくるくらい知られています。また高校生で陸上部に所属し、長距離を走っている学生なら5割以上は使っていると思います。歯が痛ければ歯科、目の不調があれば眼科にと同じように、足の不具合があれば足病科にいくといった感じで浸透しています」

 

Q.臨床でカバーできるのはどんな症例ですか?

A.足に生じた症例であれば、整形外科、形成外科、皮膚科、などの科を問わず対応できます

「整形外科部分で言えば足部に関してはすべて診ることができ、再建手術やスポーツ障害なども含まれます。また皮膚科疾患として巻き爪、外反母趾、タコ、ウオノメ、形成外科の領域では傷の手当や治療もします。整形外科、皮膚科、形成外科に関しては、診察と治療の両方を行います。また糖尿病患者の足潰瘍や足の血流障害といったものも検査はしますが、これらに関しては、治療はせず血管外科や内科とチーム医療で検査、治療に携わります」

 

 

2. どのようにして米国足病医になったのか

——いつ、どのようなきっかけで足病医の存在を知りましたか

「高校卒業後、アスレチックトレーナーになるために、当時の日本では資格が取れなかったのでアメリカの大学に行くことにしました。4年間のうち、最後の2年は体育会のチームに帯同して、ケガをした選手のリハビリやゲーム中の救急措置などをしていたのですが、そのときチームドクター以外にもチーム専属の足病医もいて、その時初めて足病医という存在を知りました」

 

——足病医学を学ぼうとしたきっかけは何ですか?

「足病医の存在を知ったとき、そのチーム専属の足病医から❝ケガが多い選手はケガを繰り返す、それは骨格に問題があり、本来備わっている足の機能が発揮できていない、もしくは使い方が間違っている❞ということを教えてもらいました。そして対処方法のひとつとして医療用足底挿板(ファンクショナルオーソティックス)があるということを知り、これは面白い!と思ったのが学ぼうと思ったきっかけです」

 

——足病医学にどのようなことを期待しましたか?

「私自身も小学校から大学までバレーボールをしていました。また、アスレチックトレーナーとして、いろいろなチームに帯同してケガをする選手を見てきて、手術もリハビリもできて、医療用足底挿板(ファンクショナルオーソティックス)も処方できれば、全方位からサポートできると思いました」

 

——どのような進路で足病医になったのですか?

「私が選考していたアスレチックトレーナーは4年制大学に通い、アメリカでは学士になります。足病医になるためにはその後4年間、大学院に行かなくてはなりません。大学院を受けるためにはプレメディカルといって医学部の共通試験のようなものがあり、その試験をクリアして大学院に進みました。その後は研修生を経て、研修医になったのちに足病医になりました。研修生のとき実習をしたのが糖尿病足病変の創傷治療をする総合病院。そこには日本ではじめて国立病院内で糖尿病足病変の治療をするために勉強に来られた先生がいらっしゃいました。その先生に誘われて今から20年前に日本に帰国したのです」

 

——これまで、どのような活動をされてきたのでしょうか

「20年前に帰国した当初はアメリカの大学にも籍をおきつつ、アメリカでの足の切断患者の研究をしていました。そして日本では、足病医がほとんどいないアジアの発展途上国の糖尿病足病変の実態調査や、これらの国の医療従事者への教育事業に携わらせていただき、そのかたわらで、足病医学に興味がある企業や医療従事者の方への教育も行ってきました」

 

3. 日本における足病医療の課題はなにか

日本人足病医は10人程度

ほとんど米国で活躍

「私が知る範囲では私含めて7人の日本人が米国足病医を取得していますが、おそらくそれ以外にもいるので10人程度は米国足病医はいると思います。ですが、日本にいるのは私だけです。ほかの仲間はアメリカで開業している人が主で、大学で研究をしながら整形外科医への指導をしていたり、医療機器メーカーのコンサルタントをしていたりとさまざまなフィールドで活躍しています」

 

今日本における足病医の課題は

広報活動、教育活動、診療報酬

「まずは、一般の方と医療従事者への広報活動が必要と考えます。足のことで困ったら、すでに活躍している足に造詣の深い先生がいる医療機関を受診できるように、足には足専門の先生がいるということを、一般の方にも医療従事者の人にも知ってもらう必要があると思います。次に、これらの足に興味がある医師や理学療法士、看護師がいたとしても、日本には足病医が存在している国で整備されているような足診療のすべてを網羅する教育システムはありません。そのため足病医学として全方位の診療を目指すのであれば、そういった教育システムも必要となるでしょう。最後に、広報と教育が成り立ったとしても、足病診療への報酬が伴わなければ、継続的な足診療は望めません。現時点では、足診療に関わる診療報酬が十分でないため、これらの先生方が安心して足診療に携われるように、そして患者さんが保険診療内でさまざまな足の治療を受けられるようになるためにも、足診療に対する診療報酬が手厚くなることが必要だと思います」

 

多種多様な人材が

日本での足病医の役割を担う

「現在の動きとして日本フットケア足病医学学会では、基本診療科学会のサブスペシャリティ領域の専門医として足病医をおくことを提案しています。これは足病医の専門医制度を作ることを目標として設定しているということです。日本の医師がそれぞれの領域に関わらず、足病医療を専門的に提供できる人材を育成するということです。また、足病医療全般を提供するためには、義肢装具士や理学療法士、看護師など、さまざまな職種の方も必要で、それぞれの領域でさまざまな取り組みが、すでになされています。そのため、日本では足病医の役割を、複数の多種多様な人材でまかなう体制が整いつつあります。これが実現して日本でも足病医療が医療におけるメインストリームに入っていってほしい、そう願っています。かつてアメリカも80年代に糖尿病患者が増え、足潰瘍や壊疽などどこの科でも診なかった病変を、足病外科と血管外科、内科のチーム医療で取り組むことになったことで、医療におけるメインストリームに入ったことが、足治療の発展につながってきましたから」

 

お話しを伺った方  米国足病医 泉 有紀先生